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代々林業を営んできた
私たちが、
新たなプロジェクト
を始めた背景
井上林業(有限会社創林)代表の井上峻太郎です。
私たちは、埼玉県飯能市の山あいで、江戸時代の中ごろより代々林業を営んできました。
現在は木材の生産にとどまらず、豊かな森林空間を活かした体験イベントを開催したり、デザイナーさんとコラボした商品開発に取り組むなど、伝統を引き継ぎながらも新たな挑戦を続けています。
そんな私たちが、「みんなでつくろう!西川谷。」というこれからの地域を共創する新たなプロジェクトを立ち上げることにしました。
なぜ、わざわざこのようなことを始めるのか。
その背景には、長くこの地に根ざして暮らしてきたからこそ肌で感じる危機感や私個人の葛藤、そしてこの地域のポテンシャルを信じる希望があります。
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地域が消滅するかもしれない、
という危機感
歴史を遡れば、この地域では木を育てる林業だけでなく、農業、養蚕、など、地域資源を活かした生業が生活と一体となり、数百年に及ぶ人々の暮らしを支え続けてきました。
しかし今、その暮らしそのものが消滅の危機に瀕しています。
かつてのように山林や田畑を手入れして丸太や農産物を販売していたのでは採算が合わず、生業として成り立たなくなり、さらに過疎化や高齢化には歯止めがかかりません。
当然それに伴って手付かずのまま放置された土地がどんどん増えています。
そうなると鹿や猪などの獣害が増え、人がますます住みにくくなっていく……という、深刻な負の連鎖が起きています。

手付かずで荒れてしまった田畑
このままでは地域が消滅し、私たちもこれから暮らし続けること自体が困難になってしまいかねません。
何代にもわたって受け継いできた大切な山林があっても、私たちがここで「普通に暮らすこと」ができなくなってしまえば、山の手入れも継承できません。
林業は、この地での暮らしがあってこそ成り立つ仕事だからです。
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私個人の葛藤
地域の危機感と同時に、私自身、個人的な葛藤も抱えていました。
それは、引き継いだ山林や畑などを大切な資産だとは思いつつも、正直なところ重荷に感じてしまう面があるということです。
あれこれ工夫しないと収益化しにくい資産を抱えることは、時に自分自身の身動きをひどく縛ります。
もしこれらの山や畑がなければ、それらの管理に頭を悩ませずにもっと自由な暮らしができるのに、、、と思ったことも一度や二度ではありません。
最終的には自分で決めて引き継いだものの、その維持管理にかかる負担の重さに、正直に言えば身軽な人たちを羨ましく思うことがありました。
「だったら、売り払うなりして処分してしまえばいい」
そう思われるかもしれません。
しかし、そう簡単に割り切れるものではない。
山林で言えば、何代にも渡り気の遠くなるような時間をかけて木を育ててきた先人たちに対して、どうしても捨てきれない畏敬の念があります。管理に煩わされたくないからという理由だけで、おいそれと「じゃあ、手放します」とはどうしても言えないのです。
実は、この地域で「山を手放したい」という声が多くありながら売買が進まない理由の一つには、同じような葛藤があるように思います。山を処分してしまいたいと思いつつも、先人が守ってきたものへの想いがあるからこそ、簡単には手放せずに立ち往生しているのです。

間伐の様子
とは言え私も、ただ維持するためだけに山や畑を手入れし続けることには限界があります。
だから、それらの資産を「責務として管理するもの」から「これらがあるからこそ、より豊かに暮らせる」と言えるようなものにしていきたい。
山や畑から新たな手段で収益を生むことも一つですし、あるいはそれらをきっかけに多様な人との接点や交流を生み出していけるかもしれない。そんな可能性を考えるようになりました。
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この地域なりの「風の谷」を
つくっていけないか
そんな状況でどうしたら希望が持てるか?何を目指したらいいのか?
この地域の都市化は現実的ではないし、あるいは観光地化して単に人を呼び込むのも、根本的な解決にはならない気がするな、などとあれこれ考えていました。
そんな時にたまたま知人から聞いて知ったのが、安宅和人氏が提唱する「風の谷」というビジョンでした。「風の谷」とは、“自然と調和しながら圧倒的な空間価値を持ち、都市に負けない魅力と知的な生産性を備えた空間”がつくれないかという構想です。
この構想を知った時、こういう発想でこの地域の将来を考えていかなければ当然立ち行かなくなるなと思うと同時に、私たちこそそれを目指していくべきだと感じました。
このビジョンを実現していくには途方もない時間がかかります。ある程度形になるにも100年単位の長い道のりになるでしょう。
でもそれって、いままで私たちがやってきた林業とまったく同じ時間軸なのです。
ここ最近で私が伐った一番古い木は、185年前に植えられたものですし、今私が植えた苗木は、会うことのない次の世代が使うことになります。
このような気の遠くなるような時間スケールの生業に身を置いてきたからこそ、数百年先を見据える「風の谷」のようなビジョンをこの地で目指していくことは、とてもしっくりくることです。

185年前に植えられた杉
脈々と受け継がれてきたこの地域を、自分たちにとっても、そしてここに興味を持ってくれる方にとっても「自分ごととして関わり、大切にしたい」と思えるような魅力ある空間にしていくために、
私たちは、この地独自の「風の谷」となる「西川谷」を掲げ、そこに向けた一歩を踏み出します。